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まず最初に犬が凄いと思った。
映像音響技術が新化している現代において声の無い映画でここまで楽しませるのは並大抵なことではない。鑑賞前の不安な部分を取っ払うには時間がかからなかった。確かに冒頭は「この演出で最後まで持つのか?」という疑問もよぎった。もしこの映画がチャップリンやキートンの流れのまんま取り込んでいたのであれば失速していただろう。しかし、この映画、突飛な近代テクニックを織り交ぜながら、展開に期待を持たせることに成功している。まったくのサイレントムービーを装った現代芸術として細部に拘っているわけだ。
主役のGeorge Valentinはクラーク・ゲーブルタイプな雰囲気がありながらフレッド・アステア風の踊りも見せる。「Gone With The Wind」よりも10年前の世界感。世界恐慌の余波などもあって思い通りにはならない時代を上手く、そして面白く描いていたと思う。
映画の中で使われる音楽は申し分なく。アベル・ガンスの「ナポレオン」までも思い出させてくれた。


